CD REVIEW Vol.26 (side B) FEB/1999



XTC "APPLE VENUS VOLUME 1" (Idea)
 「Nonsuch」以来7年ぶりの新作は、「Idea」なる自前のインディー・レーベルからの発売だっていうのに、1曲目からオーケストラを導入してるんだから豪気。ストリングスとトランペット、そして歌とコーラスが響き合う。混沌と瑞々しさがひとつになって始まるのがこのアルバムだ。

 続く「I'D LIKE THAT」は、決して音数が多いわけではないけれど、過不足なく音を組み合わせて、そこにアクセントを打ち込んでくる。ああこれがXTCの新作なんだよなぁ、と感慨に浸るのも忘れる心地よさだ。

 新人ミュージシャンの音楽性を形容する時、ちょっとねじれたセンスがあろうものならXTCの名が持ち出されるのは日常茶飯事。「屈折」という言葉がついてまわるバンド(今は2人なんでユニットか)だけど、新作でもそうした世界はそのままだ。また、このアルバムは比較的落ち着いた印象で、安定感もかなりのもの。でーんと置かれた白い陶磁器みたいなイメージだ。全体の流れとか文句のつけようもないし。

 ただ、10年前「Oranges and Lemons」で彼らと出会った時のショックを覚えているだけに、あの針の振り切れたテンションの高さに及ばないことが気になったのも事実だ。でもそれはアルバムの性格の違いもあるだろうし、なによりそんなことを考えていると、エセ異国風味の「GREENMAN」が鳴り始めたりする。やっぱ油断ならんな。

 「APPLE VENUS VOLUME 1」を聴いてるうちに気が付いたのは、僕にとってはANDY PARTRIDGEの歌声がこの上なく魅力的だってことだ。そりゃ歌の上手いミュージシャンはもっと他にもいるだろうけれど、この声でコーラスなんかされたらたまらない。「I CAN'T OWN HER」の美しさなんて、頭の隅々まで染み込んでくる感じだ。

 時代性との折り合いを求めた挙げ句に陳腐なサウンドになっていくより、こうして我が道を見失うことなく進むのも素晴らしいじゃないか。というか、XTCは放っといても死ぬまでXTCのままなんだろう。そんなことを確信してしまった僕は、つまりこの新作に満足しているというわけなのだ。



広末涼子 "private" (WARNER)
 広瀬香美や岡本真夜の曲が、広末が歌ってなければ耳にすることもないような作品なのはいいとしても、古内東子や桜井秀俊の曲までがちょっと控えめなのは残念だ。広末って、曲を書き下ろすにあたって意外とキャラ設定の難しい人なのかもしれない。で、そこに無謀なほど自分の個性をぶつけつきた椎名林檎の「プライベイト」が本作のタイトルをも飾っているのは必然だろう。そしてもう一つの軸は、広末作詞+篠原ともえ作曲による「大人にならないように」。予想以上に意志の強さを垣間見せて、ちょっとビックリ。

 それにしても藤井丈司ってプロデューサーは、アルバムとしての流れをこんなに粗雑にしといてなんで平気なんだろうか。



NUSRAT FATEH ALI KHAN "SWAN SONG" (EMI)
 ヌスラットは、パキスタンのイスラム教音楽・カッワーリーの大御所。97年のライヴを収めた2枚組だ。横浜WOMADで来日した際のステージでも、観客のパキスタン人が踊り狂いながらトランス状態に陥っていたけれど、このライヴ盤でも聴衆は凄い盛り上がり。そしてヌスラット率いる一団は、霧の奥から立ち現れかのように静かに歌いだし、清廉たる合唱、そして熱狂を生み出す掛け合いへと展開していく。

 イギリスのREAL WORLDレーベルで制作された何枚かのアルバムでは、Michael Brookをプロデューサーに迎えてカッワーリーの現代化に挑んだものの、どうも頭でっかちな印象で成功してるとは言い難かった。ところがそれから数年、ヌスラットは自身の手で、ギター・ベース・ドラム・サックス・キーボードなどを加えた電化カッワーリー編成でこんなものを作っていた。極めてドメスティックでありながら、それゆえに世界に通用してしまう音楽だ。

 強力な粘度で腰を揺らすダンス・ナンバー「ALI DA MALANG」、凡庸なロックを吹き飛ばすハード・カッワーリー「LOEY LOEY」、甘く穏やかな名曲「IK PAL CHEIN NA AWEY」など、曲調も様々で集大成的。「AKHIAN UDEEK DIYAN」での掛け合いの凄さは、ジャズにも劣らない迫力だ。

 このライヴから3ヶ月後に死去することになる彼の、現世への置き土産。「アジア歌謡は苦手」というサウンド志向の人も、そんなの問題じゃないから、これは聴いておいた方がいい。



SOUL FLOWER UNION "WINDS FAIRGROUND" (KI/OON)
 アルバムの最初を飾る「風の市」からして、生きることへの愛情に満ちている。この辺のマイルドさは、中川敬のプロジェクトであるソウルシャリスト・エスケイプから漂っていたけれど、ALTANやKILAなどのアイルランド勢との共演を含むこのアルバムでは、より一層リラックスした面も聴ける。

 と言っても彼らの角が丸くなったわけじゃなくて、気難しげな現代詩が歌われる「イデアのアンブレラ」などはまさにロックな感触。三線が鳴ってても、お囃子があってもロック。賑やかな「ヤポネシアの赤い空」からだって、しっかりとメッセージが伝ってくる。「ホライズン・マーチ」にしても同様で、しかめっ面をせずにユーモアを漂わせながら表現をする幅の広さを彼らが獲得したということだろう。

 前作「エレクトロ・アジール・バップ」に比べると、ミクスチャーの点で物足りなさを感じもしたけれど、要素と要素を融合させるスリルから、ニュアンスの深さを聴かせる方向性に移ったと考えれば納得もいく。そろそろ戻ってこいや、ニューエスト・モデル時代のファンも。

 どこ行ってもソウルフラワーはソウルフラワー。アイデンティティーや政治性という言葉を持ち出してもいいけれど、持ち出さなくても充分に現在の彼らの音楽は魅力的だ。このアルバムが100万枚ぐらい売れてたら、僕は日本を信じたかもね。



椎名林檎 "無罪モラトリアム" (東芝EMI)
 歌詞の生々しさ、引っ掛かりの多い語彙と漢字表記、そして胸に焼きついた情景を歌い上げるようなドラマの描き方の巧みさ。それだけでも特異だってのに、しなやかにして強く脈打つ歌声まで彼女は持ち合わせている。

 ディープな歌詞でありながら湿気の多い情念過多にまで至らないのは、老成と思えるほどの諦観があるからかもしれない。「丸ノ内サディスティック」の言葉の並べ方も妙で素晴らしいが、やはり彼女は歌詞にドラマを持たせるタイプの作詞家だろう。

飛び交う人の批評に自己実現を図り戸惑うこれの根源に尋ねる行為を忘れ

 「同じ夜」では、1行の歌詞でこんな言葉を一気に耳に流し込んでくる。詞/曲/歌が渦を巻くこの表現能力。椎名林檎の女性性にばかり言及した記事やレヴューを腐るほど目にしたし、これからも見続けることになるんだろうけど、それだけで済ませられる才能じゃないぞ。

 全曲のアレンジは亀田誠治。歌のエネルギーに対して乾いたトーンで拮抗しようとする方向性は間違ってないと思うけど、サウンドが「ロック的なもの」に縛られている感があって、枠がもっと広くてもいい気がした。いや、充分良く出来てるけど、なにせ主役が主役だけに助演陣にこんな注文を出しちゃうわけで。



THE ROOTS "things fall apart" (MCA)
 このヒップホップ・バンドの新作は、輸入盤では5種類のジャケがあるそうなんだが、タワーの棚で確認できたのは4種類だけだった。選んできたのは、白人警官に黒人が追われてるジャケットで、1種類のみの日本盤と同じやつ。他は、子供の涙・死体の手などで、アルバムのシリアスさをうかがわせるようなものばかりだ。

 音の方は、サンプリングも使ってるんだろうけど、実際に演奏してるにしてはサンプリングで作った並みのサウンドよりも複雑。グルーヴはマイルドだけど、リズムも凝ってるし、エフェクトもそこら中で掛けてるし。そしてギターやベースのフレーズはけっこうソウル。激しい盛り上がりなんてなくて、モノトーンのアートワーク同様に全編渋い構成だ。女性ボーカル入りで最後の方が人力ドラムンベースになる「YOU GOT ME」が聴きどころ。