樋口ヒロユキ「死想の血統 ゴシック・ロリータの系譜学」(→amazon.co.jp)は、ゴシック・ロリータとその周辺文化についての書籍。
混同されがちですが、ゴシック・ロリータ(ゴスロリ)、ゴシック、ロリータはそれぞれ概念が異なるもの。そのことを著者はまず明確にしつつ、ゴシック文化の背景を解き明かしていきます。納得させられたのは、ゴシックが建築、文学などのアートの文脈から派生しながら現在では別の次元にある文化だということ。ゴシックの起源を、ゴシック建築にまで立ち返り、具体例を挙げながら解説していきます。
そして、人形、SM、寺山修司、グロテスクという周辺文化もレポート。この中でも特に興味深かったのは、まず一般的には単純に右翼のイメージが強い三島由紀夫についてSMの章で触れ、彼の天皇への強烈なマゾヒズムを指摘している点です。僕自身の三島由紀夫についての認識を大きく変えるのに充分な説得力がありました。
また、面白いのが、1998年に青森市内で開催された天井桟敷再結成公演「人力飛行機ソロモン」のレポート。市内を劇場として、観客をも演劇を構成する一部として巻き込み、虚構と現実が侵食しあうメタ構造の「演劇」のユニークさがリアルに伝わってきます。
そして、本書のひとつの目玉というべきなのが「秘密結社★少女椿団」の結成までの経緯。丸尾末広のマンガを原作にして、原田浩がひとりで1時間弱の作品の原画を制作したアニメ「少女椿」は、その内容などから国内での上映が禁止されてしまいます。それをなんとか再上映するために、樋口ヒロユキが奮闘し、最終的に300人になった「秘密結社★少女椿団」を前に上映するまでのドキュメンタリー。業の深い作品を上映するために因果な人々が集まる過程を描いた痛快な物語です。
一点だけ気になったのは、オタクとゴスロリとの関係を語るときに、やおいがゴスロリ中心のもののようにも読めてしまう点で、こうしたオタク文化への目配せはやや甘い気がしました。
とはいえ、研究のみならず数多くの「フィールド・ワーク」が記録された本書は、ゴシック・ロリータとその周辺文化を鮮やかに浮き彫りにする本として非常に読み応えがあります。当たり前のことですが、よくわからないことについて丁寧に、そしていきいきと解説してくれる本ほど面白いものです。
「俺」「連中」といった荒っぽい言葉を使いつつも、全体として美文で綴られている点も特筆したいです。
そして、本書を貫いているのは、聖なるものを汚すことによってこそ、より高い聖性を享受できるという視点。善なるものに挑戦することによってより真実に近づけるという姿勢に貫かれた本書は、極めて同時代的かつ挑発的な内容でした。
このエントリーのトラックバックURL : http://www.outdex.net/mt/mt-t-b.cgi/2542